部下のやる気がなくて困る。どうしたらやる気を出してくれるんだろう?
マネジャーになったら誰しも悩むことですよね
よく悩んでいます…
この記事では「やる気」について深堀りしていきます
以下の2つのシチュエーションを想像してみてください。
あなたはエジプトに住んでいます。ある日、父親からこう言われました。「東京駅に行きなさい。行き方はお前に任せるから考えてみるんだ。理由?行けばわかる」
あなたは東京都内で働いています。仕事が終わり、恋人と約束している東京駅に向かいます。
やる気が高まりやすいのは、どちらでしょうか?
よっぽどの冒険者気質でなければ、後者じゃないでしょうか。
あくまで一例ですが、このことから分かるのは、人が明確な目的を持ち、その目的に対して「何としても実現したい」「できない訳がない」という自己効力感が十分にあるとき、人は主体的に行動できる、ということです。
これは、エドワード・デシの「自己決定理論」やサイモン・シネックの「ゴールデンサークル理論」などでも裏打ちされています。
自己決定理論は、人々は自己決定感と能力感を持つことで、内発的動機づけを高め、自主的な行動をとることを示しています。
ゴールデンサークル理論は、行動の背後にある「なぜ」、つまり目的意識を明確にすることで、より深い意味を持つ行動へとつながると説いています。
先ほどの例をゴールデンサークル理論に照らし合わせると、
- Why(なぜ):??
- How(どうやって):飛行機か船?車?ヒッチハイク?ラクダ?
- What(なにする):行き方を調べる
目的がないので、疑問がつきまといます。行ったことがなければ、ルートも分からず不安になります。行き方を調べて出発してみたものの、旅の途中で別のところに行きたくなるかもしれません。
- Why(なぜ):恋人に会うために
- How(どうやって):電車で東京駅に向かう
- What(なにする):駅に行って電車に乗る
行動するための明確な目的があります。土地勘があれば、目的地に行くことに対して、「できるかどうかわからない」と不安になることもないでしょう。
さらに、恋人に会うという強い内発的動機づけがあれば、例え電車が止まろうとも、別の方法を使ってでも、何とかして会いに行こうとするでしょう。
「明確な目的」と「自己効力感」があれば、どんな困難も乗り越える力となります。
管理職、マネジャーとしての役割は、部下が目的と自己効力感を持つことができるような環境をつくり、その目的達成を支援することです。
こんな感じで仕事できたら最高じゃないですか?
恋するように思いっきり働くために私たちができることを、この記事でお伝えします。
やる気のない部下の特徴とその理由
まず、どんなときに部下のやる気がないなって思いますか?
う~ん、あいさつがないとか、質問がないとか、遅刻が多いとかですかね
そうですね、やる気がないと次のような状態になりがちです
業務に対して関心が低い
やる気のない部下は、仕事自体にあまり興味を示さないことが多いです。
例えば、ミーティング中に他のことをしていたり、与えられたタスクの完了が遅れがちになります。このような態度は、その人が職場での役割に満足していないか、または自身の業務に対する理解が不足していることを示すかもしれません。
パフォーマンスの低下
やる気のない部下は、業績にも表れやすいです。
これは、仕事のクオリティが悪くなったり、スピード感の不足、期限を守れなかったりすることで表れます。このような状況は、その人が仕事に対する情熱を失っているか、あるいは仕事に対するスキルや知識が不足している可能性があります。
ネガティブな態度
やる気のない部下は、しばしばネガティブな態度を見せることがあります。
これは、常に批判的であったり、自分の失敗を他人のせいにしたりすることで表れます。このような態度は、その人が職場環境に不満を持っているか、または自己評価が低いことを示すかもしれません。
コミュニケーションの欠如
やる気のない部下は、コミュニケーションを避けることがあります。
これは、フィードバックを求めなかったり、他人と協力しなかったりすることで表れます。このような行動は、その人が自分の意見を表現するのを恐れているか、または他人との関係に問題があることを示すかもしれません。
遅刻や欠勤が多い
遅刻や欠勤を頻繁に繰り返している部下は、職場に対する尊重や意欲を欠いていることを示している可能性が高いです。
遅刻が頻繁になると、チーム全体の生産性に影響を及ぼすだけでなく、他のメンバーの士気にも悪影響を与える可能性がありますね。
無断欠勤や理由があいまいな欠勤が続くと、より深刻な問題である可能性も。
これはその部下が自分の職務に対して責任感を感じていない、または職場に対する興味ややる気を失っていることの表れかもしれません。
やる気のない部下にNGな働きかけ
部下のやる気がないなと思ったとき、こんな対応はNGですよ
うーん、気を付けよう…
感情的になる
マネジャーとして、部下がやる気を失っている時でも、冷静さを保つことが重要です。
例えば、部下が期限を守らなかった時、感情的になり、怒りや不満を露わにしてしまうと、部下はさらに防御的になり、問題の解決が難しくなる可能性があります。
代わりに、落ち着いて話し合い、期限を守れなかった原因と解決策を一緒に考えることが重要です。
無視する
部下の問題を見て見ぬふりをするのは、問題を解決するどころか、さらに悪化させる可能性があります。部下が業務に対して無関心な態度を見せているとき、それを放置すれば、部下のモチベーションはさらに低下し、業務のクオリティも低下するでしょう。問題に気づいたら、部下と話し合い、一緒に解決策を見つけることが大切です。
公の場で非難する
部下の問題を公に指摘することは、その部下を恥ずかしめ、自尊心を傷つける可能性があります。
ミーティングの場で、部下のミスを公に指摘するのではなく、1on1などで部下にフィードバックを与え、解決策を一緒に考えたほうが良いでしょう。
問題については、プライベートな環境で落ち着いて話し合うことが大切です。
一方的な決定を下す
部下が問題を抱えているとき、その問題の解決策を一方的に決定するのは適切ではありません。
例えば、部下の業績が低下しているとき、その問題の解決策を一方的に決めてしまうマネジャーがいます。しかし、その解決策が部下にとって最適なものであるとは限りません。部下の意見や感じ方を聞き、共に問題解決のためのアクションプランを作成することが重要です。
変化を強制する
部下がやる気を失っている原因は多様で、その解決策も一概には言えません。
しかし、部下がネガティブな態度を持ち続けているとき、すぐにその態度を変えるよう強制するのはNGです。変化は時間がかかるもので、無理に変化を求めると逆効果になることもあります。部下のペースを尊重し、自身の変化を支援するような環境を提供することが重要です。
部下が明確な目的を持つために管理職ができるサポート
やる気を感じられない部下のために、マネジャーがやるべきことは「明確な目的」を持てるような働きかけです。
- その仕事は自分にとって、どういう意味を持つのか?
- その仕事は会社と社会にとって、どういう意味を持つのか?
具体的には、この2つについて部下が腹落ちできているか?が大切です。
仕事を進める上で、「優先順位をつける」「やるべき課題を絞り込む」「目的に直結する行動をとる」などの行動は重要ですよね。
この時の選択の質には、“明確な目的を持っているか否か”が大きく影響します。
この2つは、Googleによるプロジェクト・アリストテレスで明らかになった「5つの成功因子」にも含まれています。
- 心理的安全性:対人関係においてリスクある行動を取ったときでも、「無知、無能、ネガティブ、邪魔だと思われる可能性のある行動をしても、このチームなら大丈夫だ」と信じられる状態かどうかを意味します。
- 相互信頼:相互信頼の高いチームメンバーは、クオリティの高い仕事を時間内に仕上げます。(これに対し、相互信頼の低いチームのメンバーは責任を転嫁します)
- 構造と明確さ:効果的なチームをつくるには、職務上で要求されていること、その要求を満たすためのプロセス、そしてメンバーの行動がもたらす成果について、個々のメンバーが理解していることが重要となります。
- 仕事の意味:仕事自体や仕事の見返りに対して目的意識を持つことは、チームのパフォーマンスにとって重要です。仕事の意味は個人的なものであり、財政の安全性、家族のサポート、チームの成功支援、各人の自己表現などさまざまです。
- 影響(インパクト):「自分の仕事が優れていて、チームにとって重要である」と思えることは、チームにとって重要です。自分の仕事が組織の目標に貢献していることを確認することは、その認識を助けてくれます。
確かにこういう状態で働けたら嬉しいな
「明確な目的」とはどんな目的でも良いのか?
ここで重要になるのが「内発的な動機づけ」です。
2つの理論が参考になります。
エドワード・デシの「自己決定理論」と、ダニエル・ピンクの「モチベーション3.0」です。
エドワード・デシの「自己決定理論」
エドワード・デシとリチャード・ライアンらによる自己決定理論は、人が自然に持つ3つの欲求に着目しています。
- 自分の有能さを証明したい欲求
- 周囲との関係性を良くしたい欲求
- 自分の行動を自律性をもって決めたい欲求
その上で、人が動くための動機づけには6段階あるとしています。
自己決定度合が低いほど他律的、高いほど自律的に人は動くと考えられます。
段階 | 動機づけ | 気持ち | 動機 |
---|---|---|---|
1 | 無動機づけ | したくない | ✔言われたからしかたなく ✔言われないとしない |
2 | 外的調整 | しかたない | ✔報酬を得るため ✔懲罰を避けるため ✔アメとムチ |
3 | 取り入れ的調整 | しなくちゃ | ✔義務感のため ✔評価や競争心のため |
4 | 同一化的調整 | すべき | ✔必要性があるから ✔楽しくないが重要だから |
5 | 統合的調整 | しよう | ✔目的や価値観と一致するから ✔自分らしさのため |
6 | 内発的動機づけ | したい | ✔好奇心があるから ✔楽しいから ✔やりがいがあるから |
より主体的に動くためには「しよう」や「したい」と思える目的が大切なのね
ダニエル・ピンクの「モチベーション3.0」
モチベーション3.0は自己決定理論の延長線にある理論です。
アメとムチによる外発的な動機を“モチベーション2.0”に対して、内発的動機がベースになる“モチベーション3.0”が、これからの時代の創造的な仕事には必要としています。
これまで用いられることが多かったアメとムチによる動機づけは、短期的には効果があります。
しかし、以下のような弊害があります。
ダニエル・ピンク著「モチベーション3.0」
- 内発的動機づけを失わせる。
- かえって成果が上がらなくなる。
- 創造性を蝕(むしば)む。
- 好ましい言動への意欲を失わせる。
- ごまかしや近道、倫理に反する行為を助長する。
- 依存性がある。
- 短絡的思考を助長する。
このような状態はよく見られますよね
モチベーション3.0のカギになる要素はこの3つです。
- 自律性:自分の人生を自ら導きたいという欲求
- マスタリー(熟達):自分にとって意味のあることを上達させたいという衝動
- 目的:自分の利益を超えたことのために活動したいという思い
意義のある目的を持って、自律的に働いて、成長していければモチベーションは自然と高まりそう
動機づけ理論をもとに管理職がすべきこと
内発的動機はそれぞれ個人の内から生まれてくるものです。
つまり、何が内なる動機になるのか?は、人によって異なります。
「コレをすれば部下の中に確実に目覚める!」という共通解はありませんが、マネジャーはそれを見つける手助けをしていくことが大切です。
例えば、1on1で「○○さんは何のために仕事をしていますか?」と問いかけてみます。
その答えが「給料や昇進」だった場合は“外的調整”や“取り入れ的調整”の段階だと言えるでしょう。
より創造性を発揮して成果を上げて欲しいなら、より主体的な行動が見込める“統合的調整”や“内発的動機づけ”が理想的です。
そのためには「自分らしさ」や「好奇心」を仕事の中に見出すことが重要になってきます。
「何のために仕事をしていますか?」という問いに、なかなか答えが出ない人もいるでしょう。どうしてそんなことを聞くのか、ピンとこない人もいるかもしれません。
それでも、折に触れて問いかけていくと、「それについて私は問われているんだ」と、考え出すキッカケになります。
決して問い詰めたり、ダメなヤツ認定してはいけません。じっくり待ちましょう
- 仕事の意味や目的をどう伝えるか?
- 部下にどう受け入れられるか?
- 部下がそこに何を見出すのか?
これによって、部下の主体性、積極性は大きく変わってきます。
そのためには丁寧なコミュニケーションが重要です。
手間と時間はかかりますが、メンバーが「しよう」「したい」と思える目的を見出す手助けをしていきましょう。
部下が自己効力感を持つために管理職ができるサポート
目的が明確になってきたら、その目的や目標に対して「これならできる!やれる気しかしない!」という手応えを感じられることが重要です。
この自己効力感が十分に持てないと、はじめは意気揚々とやる気に満ちていても、だんだんとペースダウン。。。いつの間にかこれまでと変わらない状態に戻ってしまいます。
年初にやる気を出して一年の目標を立てても、気が付いたら何も進まないまま半年過ぎていた…というのは自己効力感が低いからですね
自己効力感を持つために、重要なのは「達成経験」と「小さく分けて考える」こと。
ベースになるのは、できないと思っていたことができた!という達成経験です。
達成経験は、これまでの人生経験が影響します。
例えば、「これまで何やっても上手くいかなかった」と思っている人が、急に自己効力感を持つことは難しいでしょう。また、それなりに達成経験を積んできた人でも、これまで以上に困難な目標を目の前にしたとき、やる気を失ってしまうことはよくあります。
達成経験が不足している人には、これから積み上げていくサポートを。
達成経験がそれなりにある人には、より難しいことへのチャレンジをサポートしましょう。
達成経験を積むためのコツが「小さく分けて考える」分解思考です。
小さく分けて考える分解思考
物事を大きな塊から小さな要素に分解して考える「分解思考」は仕事・勉強・プライベートなど、あらゆる場面で活用できるスキルです。
分解することによって漠然としていた問題が具体的になり、何をすべきかが明確になります。
分解思考には、以下のメリットがあります。
- 一つ一つのタスクが細かくなり、やるべきことが明確になる
- 難易度が下がり問題を解決しやすくなる
- 失敗のリスクを減らすことができる
例えば、「売上げ目標」を小さく分けて考えてみます。
売上げを分解すると「顧客数×単価」に。
商材が複数ある場合、単価は「商材A、商材B…」に。
顧客を分解すると、「既存顧客、新規顧客」などに分けられます。
分けた上で、グループにすると、商材A×既存顧客、商材A×新規顧客、商材B×既存顧客、商材B×新規顧客といった組み合わせになります。
そうすると、どのグループでどれぐらいの売り上げれば良いか、どういう施策が考えられるか、が見えやすくなります。
次に「TOEIC®のスコアアップ」を小さく分けて考えてみましょう。
こうった分け方が全てではありませんが、大きな塊の状態よりも対策しやすくなるのは確実です。
さらに、期限という切り口でも分割ができます。
1年の目標の場合には、今月やること、今週やること、今日やること、という風に期限で分解する。物事を小さくして日々の達成を積み上げることで達成経験が増え、自己効力感が持ちやすくなります。
大切なのは、部下が自ら分解して考えることです。マネジャーは、その手助けをしましょう!
全ての部下にやる気を出してもらう必要はない
全ての部下に対応していくのは大変だな…
確かにそれはありますよね
全ての部下に目的と自己効力感を持ってもらうことが理想です。
しかし、部下一人ひとりに向き合うことは、とても時間を要します。
まずは、内発的動機づけが必要な部下と、そうでない部下で、優先順位をつけるのが現実的です。
「ルーチンワークをする部下や派遣社員」と「非ルーチンワークの社員」で考えてみましょう。
この時、ルーチンワークの社員には、アメとムチ式になってしまう場合も「その仕事の必要性を伝える」「仕事が退屈であることは認める」「それぞれのやり方を認める」ことに注意します。
そして、どちらのタイプでも「衛生要因」をできるだけ満たすこと。
フレデリック・ハーズバーグの「動機づけ・衛生要因理論」では、仕事に対して、満足⇔不満足という関係ではなく、不満をもたらす要因と、満足をもたらす要因は異なると説いています。
(衛生要因)
(動機づけ要因)
衛生要因がある程度満たされていないと、不満足な社員が増えて、職場環境が悪化する懸念があります。マネジャーにできる範囲で、部下の衛生要因を満たしていく必要があります。
あなた自身は目的と自己効力感を持てていますか?
部下が明確な目的と自己効力感を持つための方法を解説してきました。
しかし、一番大切なことがあります。
マネジャーである、あなた自身が目的と自己効力感を持てているか?
…ということです。
あなたがいくら「目的や自己効力感を持つことが大事です」と部下に言ったところで、あなた自身が生き生きと働けていなければ、説得力はありません。
まず最初にやるべきことは、「あなた自身が明確な目的と自己効力感を持ち、活気に満ちた働き方をすること」
マネジャーのそんな姿を見た部下から「課長はいつも生き生きと働いているけど、なんでだろう?」「私もああいう風になりたいな」こんな風に感じてもらえることが大切です。
まとめ
ゆる課長…仕事はお好きですか?
大好きです!サラリーマンですから!(SLAM DUNK風)
以下まとめです。
- 明確な目的と自己効力感が大切
- 明確な目的には内発的動機づけがカギになる
- 自己効力感を持つためには達成経験と分解思考
- 全ての部下に必要という訳ではない
- まず、あなた自身が明確と自己効力感を持つことが大事
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