こんにちは、ゆる課長です。
この記事では「リスキリング」について解説します。
リスキリングって最近よく聞きますよね
岸田首相の経済政策の柱の1つとしても挙げられました
昨今バズワードにもなっている「リスキリング(Reskilling)」
組織の成長戦略として議題に挙がっている職場も多いかもしれません。
あなたの職場ではどうでしょうか?
トップダウンで進められることが多いリスキリングですが、成功のカギは「ミドルマネジメント(中間管理職)」にあり。
経営層と現場を繋ぐ中間管理職が、リスキリングの真意を正しく理解して、組織内で適切に実行していくことが重要です。
この記事では、ミドルマネジメント(中間管理職)が知っておくべきリスキリングの知識と取り組み方を、現役の課長目線で解説します。
リスキリングの真の意味
リスキリングとは以下のように定義されています。
新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること
経済産業省 / リクルートワークス研究所
大幅な変化というところがポイントですね
単純なスキルアップとは違うってことね
リスキリングとスキルアップの違いは?
スキルを習得していくことは通常スキルアップと呼ばれますが、リスキリングとは以下のような違いがあります。(スキルアップは和製英語で、英語圏ではアップスキリングと呼ばれています)
アップスキリング・・・従業員が現在の分野で適切な役割を果たせるように、より高度なスキルを習得すること。
リスキリング・・・全く異なる業務を行うために、新しいスキルを獲得すること。
はしごを上に登っていくのがアップスキリング、別のはしごにジャンプして登るのがリスキリング
リカレントとの違いは何か?
日本語では「学び直し」と訳されることも多いリスキリング。
同じような用語である、リカレント教育との違いは以下のようになります。
リカレント(Recurrent)・・・「繰り返す」「循環する」という意味。社会人になった後も、必要なタイミングで再び教育を受け、仕事と教育を繰り返すこと。主に個人が主導。
リスキリング(Reskilling)・・・現在と異なる業務を行うために必要な新しいスキルや知識の習得、そのための学び直しのこと。新しい業務や職業に就くことを目的とする。主に企業が主導。
リスキリングはテクノロジーの進化による雇用消失が背景にあり、企業の生き残りをかけた変革ニーズでもあるため、企業が従業員に機会を提供するのが基本です。
リスキリングの目的は何か?
デジタル化が進んでいく中で、技術的な失業が発生し、放置すれば競争力の低下につながります。
リスキリングには、それを防ぐために衰退産業から成長産業へと労働力を移動させる狙いがあります。
そのため、リスキリングの対象としては、成長産業であるデジタル分野の職業に就くためのスキル習得を指すことが多いのです。
2020年10月に発表されたThe Future of Jobs Report 2020では以下のように報告されています。
2025年までに、8500万人の仕事が人間と機械の分業化によって置き換えられ、9700万人の新しい仕事が、人間、機械、アルゴリズムの新しい分業に適応して出現する可能性がある。
The Future of Jobs Report 2020
雇用が消失しても、新たな雇用が生まれればいいじゃん!と思うかも知れませんが、そんなに単純な話ではありません。
新しい雇用は生まれますが、そこに求められるスキルはこれまでと異なります。
例えば、AIの導入によりオートメーション化が加速する→人間の雇用が失われる→さらなるAI開発のための雇用が生まれる。
…という感じですね。
需要が増加・減少する仕事のトップ5は以下のように予測されています。
こうなると、職を失った人がそのまま新しい仕事につける可能性はかなり低くなります。
スキルギャップが大きそうね
日本では欧米に比べてデジタル化が遅れていますが、いずれその波は急速にやってくるでしょう
DXで必要になるのはエンジニアだけではない
デジタル系のスキルとなるとプログラミングやAI、機械学習といったエンジニアをイメージしますが、必要なのはエンジニアだけではありません。
IPA(情報処理推進機構)の調査によると、プロデューサーやビジネスデザイナーといった、DX事業の推進者や企画立案といったマネジメント人材にも大きな不足感があることがわかります。
人材の呼称例 | 役割 |
---|---|
プロデューサー | DXやデジタルビジネスの実現を主導するリーダー格の人材(CDO含む) |
ビジネスデザイナー | DXやデジタルビジネスの企画・立案・推進等を担う人材 |
アーキテクト | DXやデジタルビジネスに関するシステムを設計できる人材 |
データサイエンティスト/AIエンジニア | DXに関するデジタル技術(AI・IoT等)やデータ解析に精通した人材 |
UXデザイナー | DXやデジタルビジネスに関するシステムのユーザー向けデザインを担当する人材 |
エンジニア/プログラマ | 上記以外にデジタルシステムの実装 やインフラ構築等を担う人材 |
ミドル・シニア層がプログラミングを習得してエンジニアの役割を担うことは不可能ではありませんが、現実的ではありません。
しかし、DX事業を推進するリーダーやマネジャー、それを支える立場としての活躍が期待されます。
リスキリングの対象はDXだけとは限らない
リスキリングはDX関連スキルの習得を目的とされることが多いですが、成長産業は他にもあります。
例えばグリーン産業です。
DXの次はGX(グリーントランスフォーメーション)の時代とも言われています。
GXとは、化石燃料をできるだけ使わず、クリーンなエネルギー(太陽光発電や風力発電など)を活用していくための変革や、その実現に向けた活動のこと。
また、そうした活動を経済成長の機会にするために、社会のシステムや産業構造を変革していこうという取り組みのことです。
2022年に政府が新しい資本主義へ向けた改革案を公表しましたが、重点投資分野としてDXと並びGXが挙げられています。
地球温暖化や気候変動は全人類の大きな課題ですよね
具体的にはどんな分野なんですか?
経済産業省が2020年12月に発表した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」ではGX関連の産業を以下のように定義しています。
GXに必要なグリーンスキル
これらの産業に必要なグリーンスキルは、脱炭素社会を実現・維持するために必要な知識や技術です。
- カーボンニュートラルにつながる科学原理に対する知見
- それを実用の形にして課題解決につなげるテクノロジーのリテラシー
シンガポール教育省参加の組織「Skillsfuture」はグリーンエコノミー実現に向けて、取得すべきスキルを発表しています。
スキル名 | 説明 |
---|---|
グリーンファシリティマネジメント | 環境への影響と運用コストを効率的に最小化するために、施設の運用と保守を管理する。 |
カーボンマーケットと脱炭素戦略 マネジメント | 現在および将来の炭素政策、市場動向、炭化戦略に応じて組織の戦略と方針を主導し、組織と顧客の脱炭素化およびネットゼロへの取り組みを支援する。 |
環境・社会ガバナンス | 環境と社会的ガバナンス(ESG)に関する最新の業界基準や顧客基準を理解し、ESG調査活動に取り組むこと。 |
カーボンフットプリントマネジメント | 組織の二酸化炭素排出量を定量化し、削減する。 |
スマートグリッドの導入・統合 | 様々な分散型エネルギー源とエネルギー管理システムを利用した統合型スマートグリッドシステムの開発と実装。 |
都市農園事業開発・運営 | 都市農業技術の知識を応用し、農業技術革新と持続可能な農場から市場までのビジネス慣行とバリューチェーンを取り入れた競争力のあるアグリビジネス戦略を策定する。 |
環境サスティナビリティマネジメント | 業界のベストプラクティスに照らし合わせたサステナビリティ戦略およびプログラムの開発、実施、レビューを通じて、環境サステナビリティを統合する。 |
サスティナビリティエンジニアリング | エネルギー管理を最適化し、環境パフォーマンスを向上させるエンジニアリングシステムおよび資産を設計、建設、運用する。 |
サイエンスとテクノロジーのスキルが必要な感じなのかな
その他に重要になってくるのはリーダーシップやコミュニケーション能力といった、マネジメント能力やプロジェクトをリードするプロジェクトマネジメントのスキルが重要になってきます。
プロジェクトマネジメントはポータブルスキルとしておすすめです
企業がリスキリングをするメリット・デメリット
企業がリスキリングをするメリットとデメリットは以下のようなものが考えられます。
デメリットとしては、「既存業務に充てる時間が減る」「時間をかけてリスキリングをした人材が流出する」ことです。
それを防ぐためには、リスキリングに対するマネジメントが必要になります。
学習環境の用意だけではなく、リスキリング後の評価やポジションを含めた制度設計が重要になります。
逆にリスキリングに取り組まない=企業が新しい取り組みをしない場合はどうなるでしょうか?
企業が従業員にリスキリングの機会を提示ができなければ、次第に従業員自らリスキリングを考えます。
その結果、離職に繋がっていくことが予想されます。
企業の魅力を高めるためにも重要ですね
組織内でリスキリングを成功させるカギ
組織内でリスキリングを成功させるために、私たち中間管理職が抑えておきたいポイントは5つ。
- 組織内にリスキリング戦略を落とし込む
- 必要なスキルセットを定義する
- 評価の仕組みを作る
- 業務の一部として必要な時間と予算を割り当てる
- 内発的な動機づけ
組織内にリスキリング戦略を落とし込む
リスキリングの施策はその性質的に、組織の成長や人材戦略を落とし込んだものになるはずです。
つまり、トップダウンでスタートすることが多くなりますが、その目的と必要性が現場レベルまで正しく伝わっていないと、上手くいきません。
そのために、中間管理職は優れた翻訳者としての役割を果たす必要があります。
学習コンテンツだけ用意して従業員まかせはNG。
リスキリングの目的、必要性、危機感に納得してもらうこと、目標設定にも組み込んでいく必要があります。
リスキリング対象にするスキルセットを定義する
何となく必要そうなスキルだから習得してもらう。
このような考えではリスキリングが成功することはないでしょう。
リスキリングでもゴール設定=必要なスキルセットの定義が必要になります。
自社に価値をもたらすのに必要なスキルセットとは何なのか?
それは決してデジタル分野だけに限らないかもしれません。
- 市場ニーズ
- ビジネス環境
- テクノロジートレンド
- 自社のアドバンテージ
これらを分析しながら、トップマネジメントと擦り合わせして、必要なスキルセットの定義をしていく必要があります。
リスキリングした人材を正しく評価する仕組みづくり
リスキリングが成功した暁にはどうなるのか?
評価や報酬などの仕組み、部署やポストの新設や異動などのロードマップを整備しておく必要があります。
これが無いまま、メンバーにリスキリングを推し進めても組織の成長には繋がっていかないでしょう。
組織全体の人材戦略が重要になってきますね
リスキリングに必要なリソースを適切に割り当てる
リスキリングに必要なリソース(時間、予算等)は組織が準備することになります。
必要なスキルセットと現在のスキルギャップを考慮して、リスキリングに必要なスケジュール、コスト計画を立てます。
半年~1, 2年の計画が必要です
また、いくらリスキリング計画があっても、「現場の業務遂行が第一」とマネジャー考えていれば施策は進みません。
リスキリング施策を進めるには、「数値目標を達成するための通常業務」と「中長期的な成長目標」のバランスを考えた業務割り当てと組織目標の設定が重要です。
リスキリングするための内発的動機づけ
リスキリングに限ったことではありませんが、その“動機付け”によって、効果が大きく変わってきます。
明確なライフキャリアビジョンを持っている人は自ら行動しますが、そうでない人は会社側からの要請、つまり“外的動機”で動き始める人の割合が多くなります。
しかし、“なぜそれを学びたいのか”といった内発的な動機がなければ、興味関心のない領域で長時間、研修を受けても、おそらくそれを生かすことはできないでしょうし、モチベーションを持ち続けるのも難しいでしょう。
メンバーそれぞれの心の中にある「~したい(want to)」と、組織と社会が求めるもの。
この3つの重なる部分をマネジャーは見つけてあげたいところです。
- 得意なこと
- 夢中になれること
- 繰り返していること
メンバーのwant toを1on1で理解していきましょう
まとめ|リスキリング成功のカギ
それでは「リスキリング成功のカギ」のまとめです。
- 大幅な変化に適応するためのスキル習得
- 自己啓発ではなく業務の一部として企業が提供する
- 成長産業を学習分野にする
- 組織内にリスキリング戦略を落とし込む
- 必要なスキルセットを定義する
- 評価の仕組みを作る
- 業務の一部として必要な時間と予算を割り当てる
- 内発的な動機づけ
組織の心臓部である中間管理職はリスキリングにおいても、トップと現場を繋ぐ中心的な役割を担う必要があります。
と同時に、40代前後の私たち自身にとっても、今後のキャリアを考える上で、取り組んでいくべきテーマです。
まずは、あなた自身が自分のリスキリングをどうするか?考えてみましょう。
次の記事で「40代の私たちはリスキリングをどう取り組むのか?」について深堀りします。
最後までご覧いただき、ありがとうございました!
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